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Eメール: 都立松沢病院 係: 林直樹医師、精神科部長
答: 東京都に住む無職のN子さんは、24歳の時に飛び降り自殺を図り、骨折、内臓損傷で救急車で救急病院へ搬送された。その数日前から包丁で手首を傷付けていたが、「もうしない」という彼女の言葉で、精神科への入院が見送られた矢先であった。

N子さんは境界性パーソナリティー障害(BPD)と診断され、精神社会療法と薬物療法を併用した治療を受け、6週間後には退院、現在は自傷行為もなく、定期的に通院している。


Hampstead Heath, London, in March
配置番号:あなたの投稿された質問と回答が何処に配置されるかを示すため、1から5まで(少数を含む)を指定してください。: 林直樹医師、都立松沢病院精神科部長、「自殺(自殺願望)」、『新名医の最新治療2011年』週刊朝日2010年10月25日増刊号 地図: 2010-12-24 00:00:00
BPDとは?
N子さんは、子どもの頃からいじめられる等、友達関係を創るのが不得意で引きこもりがち。それまでにも自傷行為を繰り返すことはあったものの、飛び降りた時は、とりたててきっかけがあったわけではなく、「消えてしまいたかった」(N子さん)のだという。

身体の治療が一段落してから、都立松沢病院神経科に転院、精神科部長の林直樹医師がN子さんを担当することになった。林医師の診断により、N子さんはうつ病と、境界型パーソナリティー障害(BPD)が認められた。

治療の経過
BPDは、思春期に多く生じ、偏ったものの見方や考え方、衝動的行動性等のため社会生活を送ることが難しく、苦しんでいる状態。境界性とは、正常と重症の精神疾患の境界線上にある、という意味だ。

女性に多く、薬の大量摂取やリストカット等の自傷行為を繰り返すことが多い。 人口の1−2%に見られ、発症者の多くに幼少期の生育環境が影響していると考えられている。

N子さんは、林医師の面談により、次の課題に取り組んだ。?医師との間に治療(信頼)関係を築く、?低い自己評価と抑うつ症状に対応する、?衝動的・攻撃的行動と、それをもたらしたきっかけ、悩みについて考える、4生き方を見直す、?退院後も外来治療を続け、長期に亘って治療を受ける。

抗鬱剤(SSRI)を併用することにより、N子さんは6週間後に無事退院、現在は自傷行為もなく、定期的に通院している。

自殺の原因はBPDによるものが多い
林医師は、10歳代後半から30歳代前半の自殺の原因となる精神疾患は、うつ病や統合失調症よりはBPDの方が重要だと話す。

「私どもの研究で、自殺未遂、自傷行為を起こして当病院に入院した患者の精神疾患の症状を調べてところ、BPDが56%に認められました。BPDは診断しにくく、障害の範囲が広い。また、他の精神疾患と合併することで知られ、きちんと診断しようとすると大変な手間です。そのためどこもやりたがらない」

BPDの自殺未遂患者の自殺率は高い
林医師は研究のために、質問項目が多く約2時間かかる「構造化面接」を実施し、自傷、自殺未遂患者の追跡調査をしたところ、その自殺率は看過できないほど高いことが分かった。

同病院の研究では、自殺未遂または事象をして入院した患者107人のうち、現在までに9人(6人のBPD患者と3人の統合失調症患者)が自殺でなくなっている。BPD患者の総数は66人だったので、1割近くが自殺をしてことになる。

欧米で確立した治療法があるが、日本では高額のため使いにくい
欧米では、幾つか確立されたBPDの治療法(プログラム)があり、丁寧に治療すれば、重症者でも6年間で7割が治癒するという報告もある。日本でも自費診療で導入しているクリニックもあるが、かなり高額で、働けず、貧困に陥りがちのBPD患者の多くは、それらの治療を受けられる機会は少ない。

林医師は、一人の患者の話を長く効くほど病院にとって診察費が少なくなり、投薬に比重を置かざるを得ない精神科の診療の構造的問題が無くならない限り、自殺を考える多くのBPD患者を救えないことを問題視している。

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