解決したかった問題:好きなときに、何も聞かれずに預けられるセンター |
デイケアセンター「にぎやか」はそのような富山型の共生型デイケアセンターの一つである。開設は14年前だった。最初は自宅の一部を使って始めたが、当時はデイサービスというと大きな施設を持ち、車で送迎するのが普通だった。そんな中、普通の民家を使用し、家族を巻き込んで事業所運営をするというスタイルは未だ珍しかった。家族以外のスタッフはおらず、雇えるような台所事情でもなかった。
そんなデイケアが続くわけはないと周囲の人は思っていたが、阪井さんは違っていた。「絶対に困っている人がおる、こういうところがないと生きていけない人が居る。」そういう自信があって何も怖くなかった。何故確信があったかというと、阪井さん自身が惣万さんの「このゆびとーまれ」に救われた本人だったからである。 |
「このゆびとーまれ」には生後5ヶ月から3歳までこどもを預けていたけれども、そこは、私にとっての逃げ場だった。「あそこがなかったら、私は子供をどうしていたか分からんかったもんね。」「予約ではなしに、朝とか前の晩、いいですかって電話すると、必ず返ってくる答えが「いいよ、つれてこられよ」の一言だった。どんな都合でとか、どんな目的でとか、何も聞かれなかった。預けて何をするかといったら、私は遊びに行くんだよ。友達とスキーに行ったり、飲みに行ったりしてたんだよ」「家族や親戚に預けたらお前は子供を預けて遊んで歩く、親としてだめなやつやって、必ず言われる。それを考えたら、3,000円で気持ちよく預けることができる。ほんとに救われたがね」 |
問題解決のためのユニークな方法:高齢者・障害者・子供を一緒に預かる |
共生型スタイルとは、高齢者からこどもまで、障害のある人もない人も、単に同じ場所で一緒にケアする、と言うだけにはとどまらないものがある。そこには共生型ならではのノウハウがあるはずで、その一つが、まずは「腹の座りよう」なのではないか。高齢者の介護には高齢者の、障害を持つ人には障害を持つ人の、子供には子供のそれぞれのケアのコツや勘所がある。だからこそ専門分化している。そして共生型には共生型のコツやら難しさやら面白さがあり、とにかく一緒にすれば後は何もしなくともいいというようなものではない。
高齢者、障害者子供にはそれぞれの「俺ルール」がある。富山型においては、それらを同時に受け入れ、しかも一つの屋根の下で舵取りをしていかなくてはならない。通常の「常識ルール」などは吹っ飛んでしまうだろうし、そもそも、そんなものを押し付けようとしても、おいそれと受け入れてもらえるような相手ではない。こちらがそれぞれの「俺ルール」をまずは徹底して受け入れ、一切を認める心身の構えを作らないことには、何事も始まらないだろう。
周りから見ればどのようなすごい苦労でも、ここでは笑いの対象となる。それくらい阪井さんはもちろん、スタッフ一同の腹が据わっている。腹を据えて「にぎやか」に頼ってくる人たちを受け入れ、毎日毎日起こるさまざまな出来事を受け止めている。その「腹の据わりよう」が良く分かった。 |
取材中、一人、未だ首が据わっていない赤ん坊を抱っこし、ぐずり始めると立ち上がってあやすことを繰り返している男性利用者がいた。認知症と診断されていると言うが、ここに来た赤ん坊や小さな子の世話をしているうちに、「普通の」人に戻ってしまった、と阪井さんは笑う。「認知症の人も、子供を見ることによって落ち着いていくんだね。この幸吉さんもそうなんだけど、前の施設では徘徊が激しくて、スタッフが一人付きっ切りになり、徘徊探知機までつけていたんだけど、ここに着てからは、普通のジイチャンになってしまった。」認知症の人でも、こうやっていろいろな人がいることで役割が生まれて、自分はここにいてもいいと言うことが理解できるようになる、と酒井さんは説明する。
更に地域で悩み事を抱えている人、認知症や生涯を抱えて困っている人の家族、引きこもりや不登校になっている人などの相談を受ける「地域福祉相談」と言ったような役割を果たす事業所も増えてきている。困っているが他の機関に言っても解決しない。そのようなときのよりどころである。ここで断られたら、もうほかには無いという最後の駆け込み場所として、富山型の事業所に相談に来るのだという。いろいろな問題を抱えた人にとって、悩みを受け入れ相談に乗ってあげるだけではなく、富山型では事業所が預かりますというように、実際のケアまで持っていく。
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実施上の問題:自分の時間が全くない |
最初のスタッフは阪井さんと母親の二人。母親に賄いを担当してもらい、介護に当たる人間は阪井さん一人しかいなかった。だから、送迎から入浴まで一人でやった。利用者は、最初はぜんぜん来なかった。障害を持つ子供が来る程度だった。ところが、新聞やテレビで報道されると利用者が集まり始めた。 |
開業にあたり当時県内にあったデイサービスを回ってみた。惣万さんは「良いやんけ。頑張られよ。ちゃんと誠意を持って仕事をしとれば、必ず人は来る」と言ってくれた。他のデイサービスでは、涙ながらに苦労を語る人もいれば、どんな志でやるのかと説教する人もいた。阪井さんは、やり始めた1、2年はこんなに大変なことだったのかと痛感した。惣万さんのような器の大きい人だから出来るので、涙ながらに苦労を語った人のほうが正しかったと思ったと言う。自分の時間が全くなくなり、何のために生きているかと何度も思った。
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富山型デイの効果と課題 |
久保博之服係長によれば、2004年度から2005年度にかけて事業についての調査研究がなされた。
高齢者への影響
子供の姿を実際に見たり聞いたりすることは、子育てをしていた当時の頃を思い起こして満足感を覚える。認知症の高齢者でも、子供が寄ってくると頭を撫でてあげたり、かまってやろうとするなど、何らかの改善効果も見られる。要介護度が3、4の人が2や1に下がったと言う事業者からの報告もある(もちろん全ての高齢者に合致すると言うことはない)
子供にとって
3世代同居が珍しい中で、高齢者の様子がよく分かり、自然と手助けするようになるなど、日常生活の中で思いやりが身につく。 |
障害者にとって
2005年に障害者自立支援法の成立とともに、施設から在宅へと言う流れが進んできている。一方では、どこで、だれが受け入れ支えていくのか、と言う課題が深刻化している。富山型デイは地域における居場所や受け皿の役割を果たすようになっている。また通常は、利用者は単にサービスを受けるだけの存在だが、富山型では、有償ボランティアと言うかたちで、自立を探る一助にもなっている。この点も、今後大いに期待できる。
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